当院の思い「光(こう)ちゃんが教えてくれたこと」

当院の思い「光(こう)ちゃんが教えてくれたこと」

出会い

北海道はまだ雪深いとき、この子が病院に連れて来られました。
生後2ヶ月半のボーダーコリーの男の子
右の後肢が腫れて、痛がり、立ちあがることができない状態。体温が40.4℃の高熱。
感染症になるので抗生剤、痛みどめ、点滴を開始 食餌は少しだけ食べる。
しかし、何かこの子は違う...おかしい...と感じていた

翌朝、右前足も腫れて熱も下がらず横になったまま。
横たわっているこの子の目は、綺麗に透きとおり輝いている
こんなに幼いのに頑張っている。

何か病気を見落としているのか、治療が間違っているのか、もう一度検査したり、いろいろな資料を調べたが、どうしても的確な病名が見当たらない。
知り合いの獣医師とも相談したが、わからなかった。
2日後少し熱がさがってきたが、今度は顎が倍くらいに腫れて、まったく食餌は食べれなくなり、容姿はすっかり変貌してしまった。

こんな病気は初めてであり、顎が腫れることは普通ではない……。
こんな状態でもこの子の眼の輝きは変わらず、一生懸命病気と闘っていると言っているように思えた。
その夜、相談していた獣医師から電話がはいり、「大学の先生に相談したら、もしかしたら遺伝子病かもしれない」とのこと。
それを研究している先生の連絡先を教えてもらった。

翌日その先生に連絡すると、すぐに遺伝子の検査をしてもらえることになった。
しばらくすると、顎は腫れているが、熱は下がって立ち上がれるようになり、自力で食餌がとれるようになった。

3日後 検査結果がでる。

Affected (発症)

必ず死亡する遺伝子病で日本では数例しかなく、海外の文献によると多くは生後4か月で死亡もしくは安楽死となっていた。
あと1ヶ月半。

これからも顎や肢の腫れ、痛み、高熱を繰り返すので見ていられなくなり安楽死になるので病気を伝えて私が引き取り世話することで了承してもらった。

光ちゃんの闘病生活が続く

自宅にはすでに日本猫1匹とミニチュアダックスが2匹いるが、
家内にこの犬の病気の話をしたら、快く引き取ることに同意してくれた。
名前は光とかいて「こうちゃん」と命名した。

しばらくすると発熱して、みるみる顎が腫れてまた立てなくなってしまった。
それを何度か繰り返した。

検査して頂いた先生からはその後も何回かアドバイスをいただき、薬やサプリメントも試したが効果はなかった。
一度試してみれば?と、あるお薬を推薦された。
そのお薬は病院でもよく使用しているものだが、副作用が強く、肝臓なども悪くなるので、子犬には長く使えない薬。
しかもこの病気は治らないので、効果があれば飲み続けることになってしまう。
獣医としては飲ませたくない薬だが、他には手がない。
飼い主としては、高熱で痛がる光ちゃんを見るに耐えられないが、正直副作用も嫌だ。
私が帰宅すると立ち上がろうとする姿をみて、今の光ちゃんには残っている時間があまりないのだなと思い、その薬を与えることにした。

それから数日で腫れもなくなり、しばらくすると部屋を走りまわることができるようになった。
先住犬たちとも仲良く遊ぶようになっていった。
病気のせいで健康なボーダーコリーより、ずいぶん成長が遅れている。
顔は小さいが、胴体だけが副作用でかなり太って足の骨がのびず次第に曲がってきた。
しかしその後、一度も発熱も痛みもなかった。

白一色の世界だった家の庭には、ふきのとうが顔をだし、福寿草が黄色い花を咲かせはじめた。
ボーダーコリーは元々、牧羊犬で走り回るのが大好きな犬。
光ちゃんは走り回ることはおろか、5,6歩あるくのが精一杯だった。
せめて太陽の光や風を感じてほしくて、暖かい日にはだっこして外を散歩するようにした。
外にでるととても嬉しい顔をしているように見えた。

やがて長い冬をのりこえたご褒美のように、いろいろな花が一斉に咲きだした。
家内は光ちゃんをだっこしながら、

「この黄色の花はバーバスカムだよ!この白い花はねえ……」

と話しかけながら庭を歩くのが日課になった。

光ちゃん

光ちゃんは地面においても立ちあがるのがやっとだったが、ピンク色のタイムの花の匂いを嗅ぐのがとてもお気にいりだった。

ある日、光ちゃんの写真をとろうと思い、家内が光ちゃんを抱いて地面におろし
私がカメラを向けて「光ちゃん」と呼びかけると、光ちゃんは何とか頑張って立ち上がった。
いつもはそれでまたへたりこんでしまうのだが、その日は一歩一歩肢を前にだし
こちらに懸命に向かって近づいてきた。

二人で「光ちゃん頑張れ、頑張れ」と声をかけると、わずか3mくらいだが自分の力で歩いてくれた。
おもわず あのアニメのように「光ちゃんが歩いた!」と二人で叫んだ。
この時間がずっと続いてほしかった。

光ちゃん

それから1週間。
それは突然だった。

その日の前日の朝 私は光ちゃんをはじめ先住の犬猫たちに「いってくるね、お留守していてね」と声をかけて自宅から車で10分ほどの病院にいった。
光ちゃんはいつもと変わりなかった。

前の月に私の大腸にポリープが見つかり、内視鏡での摘出手術の為に2泊3日で入院することになっていた。。
内視鏡で切除なので心配はなかったが、担当の先生からは「かなり大きい腫瘍なので悪性の可能性が高い」と何度か事前に言われていた。

翌朝、午後からの手術準備をしていると家内からメールがきた。
「光ちゃんが亡くなった」
頭が真っ白になるというのはこのようなことを言うのか、ベッドの上でフリーズしてしまった。
何分そうだったかわからないが、ナースステーションに走って事情を話して30分でいいから自宅に帰らせてほしいと懇願した。
しばらくして先生の許可がでた。

こんな最後の日を家内一人に看取らせてしまい、もうしわけない気持ちで自宅にもどった。
家内は涙目でぼうぜんとしており、他の犬猫たちも解っているのか、すこし離れたところにいた。
光ちゃんは声をかけたら今にも立ちあがってきそうで、すやすや寝ているような姿だった。
いままで多くの動物の最後をみてきたが、こんなにとてもやすらかな顔は初めてだった。

光ちゃん おつかれさま よく頑張ったね ここに来てくれて本当にありがとう。

生後8ケ月と28日。

不思議なことにその日の空には、ボーダーコリーそっくりな雲がうかんでいた。

ボーダーコリーそっくりな雲がうかんでいた。

夢物語と思って読んでください。

動物の診療を何十年もしていると、重病な病気の動物を扱うときもどこか少し冷めてしまっている自分がいました。

病気と闘って辛いのに無言で頑張っている動物の気持ち、それを一緒に看ながらそばで世話している飼い主の気持ちをちゃんと考えて治療にあたることができるようにと、光ちゃんが教えるために来てくれたと思っています。

ちなみに私の腫瘍は先生も驚いていたのですが、良性でした。

光ちゃんが守ってくれたと思っています。

光ちゃんが亡くなってから1年すぎても、家内はとても落ち込んでいました。
しかし光ちゃんの誕生日の朝、家内は

「光ちゃんが夢にでてきた。光ちゃん2歳の誕生日おめでとう!!と言うとしっぽをふって寄ってきてくれた。ペロペロなめて、触った感触がいまもある」

と、久しぶりの笑顔を見せてくれました。
光ちゃんが励ましにきてくれたと思います。

光ちゃんが励ましにきてくれたと思います。

光ちゃんからは私たちはいろいろな事をいっぱい教えてもらいました。

昨年家内の実家の羽島に引っ越してきました。
海を見ながら過ごすのは私の人生初めての経験です。
光ちゃんに雪を見せたり触らせましたが、海も見せてあげたかった。
海岸を思いっきり走らせてあげたかったと思っていたら家内がこんな絵をかいていました。

09059811387

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Posted by かやま往診専門動物病院